1.地形と水系

・関東地方は、北部と西部を山地に、南部と東部を太平洋に囲まれており、その中央に関東平野が広がっています。
・地には富士山を始め標高2000mを超える山々が分布し、その多くは火山帯に属します。
・東平野は台地と低地に分けられます。
・太平洋側には房総半島と三浦半島が突き出し、これら二つの半島に抱かれるように東京湾があります。

・都道府県界を超えて一体的に管理する必要がある水系を”一級水系”と呼び、全国で109水系が指定されています。
・関東地方では久慈川、那珂川、利根川、荒川、多摩川、鶴見川、相模川の7つの一級水系があります。
・房総半島と三浦半島には一級水系はありません。
関東地方の地形と水系

2.上流部から下流部へ河床勾配が急変する関東の川

・川の流れる方向の川底の傾きを、河床勾配といいます。
・山間部では河床勾配が急になり、平野部では緩やかになります。
・日本は山地が多く平野は少ないため、ほとんどの川が急勾配河川になります。
・関東地方では、山地部を流れ下って来た河川が平野部に至ると一気に緩やかな傾斜に変化するという特徴があります。
山地で降った雨は山麓を一気に流れ下り、流れが遅くなる平野部で洪水を起こしやすい地形と言えます。
・ライン川やセーヌ川などと比べると関東地方の河川の河床勾配がいかに急かわかります。(下図)
河川勾配
  

3.江戸時代から続く人口集積

・人口推移(江戸前期と明治期以降、2段階の人口増)

  関東平野では関ヶ原の合戦後人口の集積が顕著になり、享保の改革があった1720年頃には600万人を超えいました。
その後大飢饉等の影響で100年あまり人口増が有りませんでしたが、明治維新以後再び人口集積が活発になり、平成24年には4千万人を超えるまでになりました。
関東地方の人口推移

4.拡大する市街地を守る水との闘い

・戦国時代(山林の荒廃、頻発する洪水)

  戦国時代の山は築城や焼き畑のため裸地や草原が多く荒れ果ており、豪雨のたびに洪水が発生し下流の農地や集落に被害が頻発していました。
  台地部の多くは水が乏しく農業に適さなかったため採草地や馬の放牧地となっており、低地部には湿原が広がっていました。
  この時代、農村集落の人口は平均400人程度、幕府の置かれた鎌倉でも6~10万人で、まだ大規模な市街地はありませんでした。

・江戸時代(続く山林荒廃、農地と市街地の拡大、洪水との共生)

  江戸時代には、山林での樹木伐採の制限や植林も行われましたが、一方で人口増加に伴い山林からの収奪は高い水準にとどまり山林の荒廃は収まらず、山からは大量の土砂が流出し頻繁に洪水が起こりました。
  一方、農業用水や水上交通路の確保のため河川整備が進められ、台地の草原には畑地と農用林が作られ、低地の湿原には水田が広り、100万都市江戸の街並みが形成されました。
  この時代の河川防災は、洪水との共生の中で被害の最小化をはかることが基本でした(霞堤、控堤、惣囲堤、水塚など)。

・明治時代から第二次大戦終結まで(続く山林荒廃、市街地拡大に伴う洪水被害拡大、連続高堤防整備)

 明治期以降、度重なる戦争の影響も有って山林の荒廃はさらに進み、山林の荒廃により洪水は頻繁化しました。
  一方で市街地・農地の拡大は一層進んだため洪水による被害は拡大し、河川災害対策は大きな行政課題となりました。
  明治政府は外国人技術者の助けを借りて水害対策に乗り出し、連続高堤防整備によって洪水を封じ込める政策に舵を切りました。   この政策は一定の効果を上げたものの、第二次大戦直後のキャサリーン台風による大水害などを防ぐことはできませんでした。

・第二次大戦終結以降(山林の緑の回復、市街地の急激な拡大と農地の減少、総合治水への転換)

  第二次世界大戦の終結を境に植林によって山林の緑は急速に復活していきます。   第二次世界大戦後には、都市交通の主役が水上輸送から鉄道・自動車による陸上輸送に急速に切り替わり、通勤圏が大きく広がったことから、市街地の拡大が顕著になりました。
  2009年現在の土地利用を見ると、東京を中心に市街地が大きく広がり、その外側は農地で、北部・西部・半島部の山地は森林となっています。(下図)
河川防災の面では、ダム・遊水地・堤防・流域の土地利用を総合的にコントロールする総合治水対策へと方向転換されました。
その効果もあって大きな河川の氾濫は少なくなってきたものの、市街地の拡大に伴って生まれた、流域の大部分が市街地である都市型河川での洪水が大きな問題となっています。
関東地方の土地利用
  

5.農地山林の減少と市街地の拡大に伴う流域の保水力低下

土地利用の状況に応じてその土地が水を蓄える能力(保水能力)は大きく異なります。(下図)
関東地方では市街地の急激な拡大に伴い、土地の保水能力は低下傾向にあります。
森林の手入れ、市街地での透水枡の設置、道路の透水性舗装などで、保水能力を高めることが大切です。
土地の保水能力だけでは防ぎきれない増水に備え、ダムや遊水地・堤防などの整備も大切です。

○ 森林(保水力 ○)・・・面積減少、植生回復

  森林は、樹木・林床による保水と地下への浸透によって高い保水力を持っています。

  しかし、落葉広葉樹が多い林と比べ、間伐や下枝祓いなどの手入れが不十分な針葉樹の植林地は林床の腐葉土層が薄いため保水力が小さく、大雨の際には倒木が川に流れ込み洪水被害を拡大する要因ともなります。

  高い山に積もった雪は、天然の貯水槽となり、春先の水田に豊富な水を供給します。

  戦国時代以降第二次大戦終結までの長期にわたりはげ山に近かった山林の多くは戦後の植林で緑豊かな森林になりました。

○ 農地(保水力 △)・・・面積減少

 畑地の地表面の保水力は大きくはありませんが、地下への雨水の浸透力は高いという特徴があります。

  水田は、もともと水を溜める機能をもっており、高い保水力を持っています。

  江戸時代には水田や畑が実質的な遊水地としても利用されていました。



○ 市街地(保水力 ×)・・・面積急増

  市街地には、建物が建ち、道路は舗装されているなどのため、地表面の保水力は極めて低く、雨水の地下浸透も殆ど無く、降った雨は、側溝や下水管を通ってすぐに河川に流れ込みます。

  関東地方では、東京を中心とした市街地の拡大に伴い、河川流域の保水力が低下し、降った雨がすぐに河川に流れ込むため洪水の危険性が高まる傾向にあります。

  市街地の保水能力を高める方策として、宅地内に雨水浸透枡を設ける、道路舗装を透水性のものに変える、校庭や広場などに一時的に雨水を溜められるようにするなどの対策を講じることが大切です。

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